中小企業は財務的に健全ですか?Beancount ユーザー向けの実践的なプレーンテキスト会計チェックリスト
· 約10分
創業者として、製品・顧客・チームに全力を注いでいますが、ビジネスの財務脈拍にも同様に繋がっていますか?財務健全性は会計士だけの複雑なテーマに思えるかもしれませんが、実際は 流動性、収益性、支払不能、業務効率 の四つの柱に集約されます。
本記事では、月次または四半期ごとに実行できる創業者向けの簡潔なチェックリストを提供します。最大の特徴は、プレーンテキスト会計ツール Beancount ユーザー向けに設計されている点で、どこを見ればよいか、何を追跡すべきかが具体的に示されています。

Beancount ヒント: Beancount のウェブインターフェースである Fava は、このチェックリストの指令センターです。組み込みの 損益計算書、貸借対照表、保有資産 レポートに加えて、クエリ機能が備わっているため、指標を素早く確認できます。
12 項目の財務健全性チェック
1) 夜も安心して眠れるだけの現金はありますか?
- 見るポイント: 現金準備金。一般的な目安は 3 か月から 6 か月分の営業費用 を現金または高流動性資産で保有することです。事業の変動性、季節性、成長計画に応じて調整してください。
- 重要性: 健全なキャッシュバッファがあれば、顧客の喪失や市場の低迷、サプライチェーンの遅延といった予期せぬショックを高コストなリアクティブ資金調達に頼らずに吸収できます。財務的な安心感の基盤です。
- Beancount での確認方法: Fava の 貸借対照表 に移動し、
Assets:Bank:*系の残高と、保有している短期流動投資の合計を算出します。
2) 今日の流動性は堅実ですか?
- 見るポイント: 流動比率(
流動資産 / 流動負債)。より厳格に見るなら 当座比率(在庫を除く)を使用します。比率が 1.0 を超えていれば概ね安定とみなされますが、業界によって異なります。 - 重要性: これらの比率は、短期資産だけで短期負債(給与や仕入先への支払)をカバーできるかを測ります。つまり「今すぐ全ての支払を行っても困らないか?」という重要な質問に答えます。
- Beancount での確認方法: Fava の 貸借対照表 が必要な数値をすべて提供します。
Assets:Receivables、Assets:Inventory、Liabilities:Payablesを別サブアカウントで管理しておくと便利です。
3) 継続的に利益を上げていますか?
- 見るポイント: 損益計算書上の 純利益。特にトレンドに注目し、月次または四半期ごとにプラスで伸びているかを確認します。
- 重要性: 利益は事業のエンジンです。成長資金の供給源であり、投資家を惹きつけ、景気後退時のクッションとなります。継続的な利益は持続可能なビジネスモデルの最も明確なシグナルです。
- Beancount での確認方法: Fava の 損益計算書 を開きます。(プロのコツ: Fava の「収益符号を反転」オプションを有効にすると、財務レポートが直感的になることがあります。)
4) 粗利益率は維持(または改善)していますか?
- 見るポイント: 粗利益率(
(売上高 − 売上原価) / 売上高)。売上原価(COGS)は通常期首在庫 + 仕入れ − 期末在庫で計算します。 - 重要性: 粗利益率は、間接費を差し引く前の製品・サービスの収益性を示します。率が縮小すると、価格設定力の低下、割引圧力、原材料コスト上昇などの警告サインです。
- Beancount での確認方法: 直接費用をすべて
Expenses:COGS:*に分類すれば、Fava の 損益計算書 上で直接マージンを確認できます。
5) 売掛金は期限通りに回収できていますか?(DSO)
- 見るポイント: 売掛金回転日数(DSO) は概算で
(売 掛金 / 総クレジット売上) × 日数で算出します。平均回収日数を示します。 - 重要性: DSO が高いと、現金が顧客の口座に滞留し、自社のキャッシュフローが圧迫されます。効率的な回収は流動性維持に不可欠です。
- Beancount での確認方法: 請求書にメタデータ(例:
invoice: "INV-123"、customer: "AcmeCorp")を付与し、Fava の 貸借対照表 上の総売掛金残高をモニタリングします。
6) 在庫は効率的に回転していますか?
- 見るポイント: 在庫回転率 は
売上原価 / 平均在庫で算出します。在庫日数(DSI) でも在庫が棚に滞留する日数を把握できます。 - 重要性: 回転が遅い在庫はキャッシュを無駄に固定化します。一方、回転が速すぎると品切れリスクが高まり、売上機会を失います。最適なバランスが鍵です。
- Beancount での確認方法: Beancount の組み込みロット追跡機能でコストベースと数量を正確に管理し、Fava の 保有資産 タブで現在のポジションを確認します。
7) 現金回転サイクルはどれくらいですか?(CCC)
- 見るポイント: キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC) は
DSI + DSO − DPO(支払日数)で算出します。在庫・仕入れ支払いから顧客回収までの期間を測ります。 - 重要性: CCC が短いほど、外部資本への依存が減り、成長が加速します。負の CCC(例: Dell、Amazon)になると、仕入れ前に顧客から現金を受け取る強力なポジションになります。
- Beancount での確認方法: DSI と DSO は既に追跡済みなので、残りは
Liabilities:Payablesから DPO を算出します。四半期ごとのトレンド確認で十分です。
8) 借入金の返済は余裕がありますか?(DSCR)
- 見るポイント: 債務返済カバレッジ比率(DSCR) は
営業利益 / 総債務返済額で算出します。多くの貸し手は 1.25 以上 を求めます。 - 重要性: この比率は、事業が生み出すキャッシュでローン返済が可能かを示します。健全な DSCR は貸し手との関係維持や契約違反回避に不可欠です。
- Beancount での確認方法: ローン返済(元本・利息)にタグ付けし、クエリまたは手動で期間中の総返済額を集計し、損益計算書 の営業利益と比較します。
9) ビジネスモデルに対してレバレッジは適切ですか?
- 見るポイント: 負債比率(Debt-to-Equity) と 運転資本 を確認します。単一数値だけでなく、数四半期にわたるトレンドも分析してください。
- 重要性: 借入は成長資金として有効ですがリスクも伴います。適切なレバレッジは業界やリスク許容度に依存します。負債が自己資本の伸びを上回っていませんか?
- Beancount での確認方法: Fava の 貸借対照表 が総負債と総資本を明示しています。
10) 売上の集中度はどうですか?
- 見るポイント: 上位 1、3、5 顧客が占める売上比率。単一顧客が 10〜20%以上 を占める場合、リスクが高まります。
- 重要性: 少数の大口顧客への依存は解約リスクを増大させ、価格交渉力を弱めます。売上の分散は事業のレジリエンスを高めます。
- Beancount での確認方法: すべての収益エントリに
customer:タグを付与し、Fava のフィルタや Beancount クエリで顧客別売上を集計します。
11) ユニットエコノミクスは成立していますか?
- 見るポイント: 各製品・サービスラインの 貢献利益(
売上高 - すべての変動費)。 - 重要性: スケールアップがキャッシュを増やすか、逆に燃やすかを示します。貢献利益がマイナスなら、追加販売ごとに損失が出ます。
- Beancount での確認方法:
product:やchannel:などのメタデータで変動費と売上をタグ付けし、クエリで粒度の高い利益率を算出します。
12) 帳簿はクリーンで監査可能ですか?
- 見るポイント: 明確なドキュメント、統一された勘定科目表、IRS(米国税務当局)の推奨期間に沿った記録保持ができているか。
- 重要性: クリーンな帳簿はエラーを減らし、税務処理を高速化し、資金調達やデューデリジェンス時に必須です。
- Beancount での確認方法:
invoice:やdocument:メタデータを活用し、Fava のドキュメントリンク機能で領収書や請求書の PDF を直接参照できるようにします。
1 時間で完了する月次財務リチュアル
このチェックリストをルーティン化しましょう。毎月の営業初日に 1 時間を確保し、以下のステップで健康診断を行います。
- (15 分)— キャッシュ & ランウェイ: 現金残高を確認し、主要な支払予定と売掛金からの入金予測をレビュー。3〜6か月分のバッファが依然として確保できているか再検証。
- (15 分)— P&L レビュー: 純利益と、特に 粗利益率 のトレンドをスキャン。マージンが低下していれば、割引、返品、COGS 上昇の原因を調査。
- (15 分)— 運転資本チェック: DSO、在庫回転率、DPO をざっと確認し、CCC を算出。遅延請求書のフォローや在庫再発注点の調整など、必要なアクションを特定。
- (15 分)— 支払能力 & リスク: 借入がある場合は DSCR を確認。負債比率 と売上集中度の変化もレビュー。逆方向に進むトレンドがないかチェック。
最後のリマインダー
- ベンチマークは業界によって異なります。 SaaS 企業の「良好」な流動比率は小売店とは大きく違います。まずは自社の過去データと比較し、次に同業他社と比較してください。
- トレンドがスナップショットに勝ります。 単一データポイントは誤解を招くことがあります。主要指標を 6〜12か月分チャート化すれば、事業の真の方向性が見えてきます。
- プレーンテキストの強み。 Beancount の透明性は最大の利点です。レポート上の数字に違和感があれば、数秒で該当するプレーンテキスト取引に遡って確認できます。これにより、財務ストーリーを完全にコントロールできます。